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旬を迎える果物たち

厚木インターからほど近い場所にある柳下園の直売所前には、宅配便のトラックが止まっていた。出荷時期を迎えた梨やぶどうが、ここから全国各地へと配送されていく。とはいえ昭和35年頃からはじめた直売所での販売がメインで、店先には年間をとおしてさまざまな果物が並ぶ。
「春はイチゴ、6月頃になるとはちみつがとれ、夏からは10数種のぶどう、梨にいちじく、これからの季節だと柿ができあがります。藤稔という藤沢発の種なしぶどうもつくっていますよ。はちみつは、れんげにみかん、アカシア、栃、あとは百花蜜といって数種類の花の蜜からなるはちみつがあります。ここ数年、全国的にミツバチが巣に戻ってこない現象が起きていて、とれる量がぐっと減ってしまったので、今年のぶんも残り少ないです」
みかんを栽培する農家が減ったことや、れんげの花の減少により、そもそも30年ほど前から少しずつ、国産のはちみつはとれにくくなってきているそうだ。

雑草ぼうぼうの畑でこそ

柳下園の畑は少し変わっている。たとえば温室のぶどうの木は、地面に直接生えているのではなく、大きな鉢植えで育てられている。
「鉢での栽培方法は文献を読んで勉強しました。かなりめずらしい方法ですが、このほうが肥料や水を保たせることができるんです」
また、梨は棚栽培をもちいている。本来上に上にと伸びようとする性質を持った木を縛り、少しストレスをかけることで、生命の危機を感じた木が子孫を残そうとして結果的に果実がおいしくなるという。「ほかにも、日がまんべんなく当たることや剪定が楽などのメリットもあります。手間をかけずにいい環境をつくることが、おいしい果物づくりにつながります」そもそも畑をあまりにきれいにしていては、おいしい果物ができにくい、と柳下さんは考える。だから柳下園の畑は草がぼうぼうに生えたままだ。その自然な形を守ることで、病気を抑えたり土の保湿ができたりするのだという。
「いかに楽しておいしいものをつくるか考えてるんですよね」と柳下さんは笑っていたが、普通は一年に一度まとめてあげてしまう肥料を、成長の段階にあわせて何度もわけてあげるなど、おいしい果物づくりに余念がない。

大切なのはバランス

そんな畑でとれた梨の実は、触ると皮がやすりのようにざらざらしている。皮のざらざらが、果実の水分を保ってくれる役割も果たしているので、果実を選ぶときには触り心地を確かめるのもいい。
「果物を買いに来るお客さまにはよく、“これ甘い?”と聞かれるのですが、甘いだけではおいしいとは言えない。糖と酸味のバランスがよく、コクがあってはじめておいしいと思えるのです」
残念ながら今年の梨はもう終ってしまうが、これから旬を迎える柿も楽しみだ。

取材/文 吉川愛歩


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