神奈川県茅ヶ崎市香川2288
0467-51-3445
http://nouka.tv/iemon


生活観にあった等身大の野菜をつくる

三橋さんの家の前にある伊右衛門農園の直売所では、毎日オープンから数時間でほとんどの野菜が売り切れる。とれたての野菜、しかも三橋さんが工夫と経験を重ねて丁寧につくったものだけに、オープン前から待っている人や、東京や横浜から車で買いに来る人も多い。毎週土曜に三橋さんが代表を務める“茅ヶ崎海辺の朝市”でも、伊右衛門農園の前には人だかりができている。
「自分も食べるし、子どもたちも畑で遊びますから、単純に身体に悪いことはしたくないんです。でも、正直なところ完全無農薬の有機野菜にしてしまうと、今の値段では売れなくなってしまう。それに野菜は毎日食べるものですからね。そんなに高価では誰もが気軽に食べられない。かといって安全性もおろそかにはできない。だから、作づけしている野菜の病害や害虫、使用する農薬の性質などをきちんと知り、極力使わないよう努力した上での使い方を考えています」
三橋さんは野菜づくりに活かすため、毒物劇物取扱責任者の資格を持っている。農薬の性質を正確に把握していることが、今の安全な野菜につながっているのだ。

やりたいと思える農業を

伊右衛門農園では、農薬を減らすためにさまざまな工夫をしている。一般的なことでいえば、同じ畑で同じ野菜を作り続けることによって起こる病気の連鎖などを防ぐために、同じ畑でさまざまな種類の野菜をつくっている。そのぶん手間はかかるが、直売所の野菜カゴの中はいつも種類豊富である。
そのほかにも畑を休ませることや、畑に不織布をかぶせて虫を寄せつけないようにし、畑にも人間にも無理のない農業を目指している。
「僕もあとを継いだ人間なので思うのかもしれませんが、子どもたちが“やってみたいな”と言いだせる農業をしていたいんです。僕が楽しんでやっていれば、きっとそれを見ている人たちは、楽しそうだなと思ってくれる」
三橋さんの3人の子どもたちが父の背中をどんなふうに見ていくのか、これも楽しみのひとつだ。

食卓を彩り豊かに

伊右衛門農園の特徴はもうひとつある。野菜の種類が豊富なだけではなく、めずらしい野菜が多くつくられているのだ。
たとえば今年の夏につくられたナスは、丸ナスや漬物用の小さなナス、ひょろりと長いヒモナスなど、全部で6種類。苦味の少ない白ゴーヤや、生のままかぶりつけるトウモロコシ、赤いオクラに生食用のサラダ白菜、幾何学的な造形のカリフラワー・ロマネスコ……。
「種苗メーカー主催の勉強会に参加したり、インターネットで調べて、見た目がよくておいしい野菜をいろいろつくっています。調理の方法にあう野菜を使えば、それだけおいしく食べられますよね。にんじんなら、生やジュースなどで食べるものに適したものもあれば、煮物のほうがおいしいものもある。それに、そういう色鮮やかで見た目のいい野菜は、家庭の食卓を豊かにしてくれる。お母さんのごはんがおいしい、美しい、というのは、いちばん大事なことだと思うんです」
これから秋になると、芽キャベツとケールをかけあわせたプチヴェールという日本発の新野菜も見られるようになる。見かけたら、ぜひ試してみてほしい。

取材/文 吉川愛歩


このページの先頭へ